12/6/2022

「戦争から煌めきと魔術的な美が、遂に奪い去られてしまった。」

 ーサー・ウィンストン・チャーチル

 

 本記事は2022年のどもがよアドベントカレンダーの12月6日分の投稿記事です。

 2023/1/18 誤字等を修正しました。こっそり追記したりとか。なんか記事の追善法要をしてた人がいたので修正したくなっちゃった。

 

 どもがよアドベントカレンダーについてはこちら。

adventar.org

 

 

 昨日の記事はこちら。

 

tackmans-horse.hatenablog.com

 

すっかり馬大好きおじお兄さんとなったたっくまんさん。

POGは楽しそうなんですよね。勉強してみるかなあ。

 

 

1、Paradox Interactive(パラド)ってなーに?


 多分この記事を読んでいる人にParadox Interactiveがなんなのかわからない、という人は居ないとは思うが、一応お作法として簡単に解説する。
 Paradox Interactiveはスウェーデンに本拠を置きPCゲームを中心に開発するパブリッシャーで、愛好家からは「パラド」と通称される。
 これに則り、本記事においても以下「Paradox Interactive」を「パラド」、「Paradox Interactiveが開発・販売したゲーム」を「パラドゲー」と呼称する。
 基本的に「重厚な歴史シミュレーションストラテジー」一本槍の男らしい会社であり、ライトゲーマーにもわかりやすく言えば「世界規模の信長の野望を色々な時代で作ってる会社」である。
 ゲームの多くが「歴史の舞台を与えるから、ゲームの目標は自分で作って楽しみなさい」という形式をとっており、その強烈なまでの自由度と奥深さに夜を溶かす人が後を絶たない。

 実は開発部門が2012年に分離していたり、自前のゲーム配信サービス(GamersGate)をやってるが特に独占販売をするわけでもなくいまひとつだったり、Prison Architectをいつの間にか買ってたり、と細かい語りどころは色々あるのだが今回のテーマはパラドが最も得意とする「歴史」をテーマにしたタイトルのラインナップとその現在地、そして筆者が個人的な希望も丸出しにしながら考える今後についてである。
 なお、筆者は日本のパラドゲーコミュニティの分布から考えると恐らく少数派であろう、「マルチプレイに一切興味が無いタイプ」であることを付け加えておく。

 

2、パラドゲーのラインナップは「時間軸」を基本とする


 前述のようにパラドが扱うのは歴史、特に人類が具体的に後世のその記録を残したいわゆる「有史」と呼ばれる部分を中心とし、一定の時間軸ごとに区切ってそれぞれのゲームが開発・販売されている。
 ナンバリングタイトルが複数発売されシリーズ化されているものが4作品あり、今のところ単体で販売されているものがいくつかある。

 これに加えて前述のようにPrison Architect(刑務所を運営するゲーム)、Cities: Skylines(Simcityのように街作りをするゲーム)といった歴史が一切関係ないゲームもある。

 加えて、歴史をテーマにしたパラドゲーの中にも異色作といえるものはいくつかある。ゲームの基本的な考え方はEU4の、その精神的システムはVICやCKに近く「CK3やVIC3のテストベッドだったのでは?」と個人的に睨んでいる『Imperator: Rome』や正直どこに行きたかったのか今ひとつわからん日本の戦国時代をテーマにした『戦国』などがあるのだが今回はこれらには触れず、中世から現代に至る歴史的時間軸を大きく4分割してそれぞれ発売され、ナンバリングされて続編も発売されているパラドのいわば「根幹」といえる歴史ゲームの4タイトルと、ナンバリングされていないし歴史ゲームの範疇にも収まらないが、「時間軸」というパラドゲーの精神において外せない1タイトルについて概説し、それらのゲームの現在と今後の雑感を述べる。

 

東ローマ帝国全盛期!ノルマンコンクエスト!からコンスタンティノープルの陥落まで Crusader Kingsシリーズ

「後継者が生まれた!なに遺伝疾患!?流石に美形天才2×3はインブリードが強過ぎたか!」

store.steampowered.com

ゲームの紹介

 

 2020年に最新タイトル「Crusader Kings III」が発売された、中世ヨーロッパを舞台にしたゲーム。ファンからは通常「CK」と呼称される。公式日本語版は無いが有志のMODがある。
 封建制全盛期であるこのころはまず「個人と家」があり、「国」や「領土」はそれに付随するものに過ぎなかった。領土とその権益、領民は貴族個人の世襲財産で、「国」は貴族個人とその一族が支配する領域のパッケージに過ぎない。家産国家とはよく言ったものである。
 これを反映し、以降の時間軸を扱うゲームでは基本的に「国」を操るのに対し、Crusader Kingsでは「その時代を生きる一個人」を操ってプレイする。戦略シミュレーションというよりはロールプレイングゲームに近い趣がある、パラドでは異色のゲームといえる。(初っ端から異色のゲームを持ってくるなって?それはそう)
 「昼ドラ」とも称される複雑な人間関係を生き抜き、自分の業績を子や孫に伝えていき、国を育てるというよりは「自分の一族を育てる」楽しさとままならなさはたまらないゲーム体験となる。結婚と継承がゲームシステムの根幹にあることから、冒頭のように人間ウイニングポストが出来るのも楽しい。
 主君の血筋の余計な後継者候補を粛清したり同僚に謂れの無い罪を着せて反乱に追い込んだり主君の姻族を粛清したり同僚の妻を寝取ったり出来るよ!鎌倉殿の13人ごっこだね!


ゲームの現在


 最新タイトルのCrusader Kings IIIが2年前に発売され、初の拡張パックも今年2月に発売された。ゲーマーからの評価もおおむね良好でパラドゲーの主力の一翼を担っているといってよいだろう。


ゲームの今後


 開発チームも活発に動いており、来年も新たな拡張パックを期待してよいと思う。初回拡張が実質的に宮廷のみで思ったよりは小粒だったので大型拡張を期待したいところ。養子とかどうすかね。
 個人的にはごりごり家系図を広げてバリバリ血族を増やしていくと無限に分家が増えていくのは流石に何とかならんか、という気がする。プレイスタイルにもよるかもしれないが分家の分家の分家とかになるともう訳が分からない。3代連続で分家ができたらもう親系統にしていいんじゃないかな(ウイポ脳)

 

襲い来るトルコ、終わらない百年戦争フランス革命とナポレオンまで Europa Universalisシリーズ


文芸は復興し、宗教は混乱し、人々は新天地と自由を求めた

 

store.steampowered.com

 

ゲームの紹介


 最新タイトルは2013年に発売されたEuropa Universalis Ⅳ、近世ヨーロッパを舞台にしたゲーム。ファンからは「EU」と呼称される。
 CKから時代が進み、「個人」が世界に影響を及ぼす範囲が狭まりながら、「国家」が幅を利かせていく頃、近世。
 ただこの時代はまだ「国民」や「民族」といった感覚が薄い。国とそこの民は国王個人の所有物で、民族はせいぜいは言語と宗教の大まかなくくりに過ぎない。ココに自由のエッセンスを加えてヨーロッパ中にばら撒いたのがナポレオンになるがこのゲームで味わえるのはその萌芽まで。主役は「国家」であり、民族なき民を纏め上げるもの、即ち「宗教」だ。
 という訳で「ヨーロッパ国家」が君主の欲望と宗教を燃料にぶち込んで世界中を塗りつぶすゲームである。実質スプラトゥーン奴隷貿易コンキスタドールといった歴史の負の側面もちゃんと入っている。なぜ、当時のヨーロッパ諸国がその道を選んだのかをプレイヤーに納得させる形で。

 一応アジアやアフリカ、南北アメリカに当時存在した国家でもプレイはできるし、それはそれで楽しみがあるのだがEuropa Universalis である以上ゲームとしては脇役、被征服側に甘んじており、主役はあくまでヨーロッパ国家である。琉球で世界征服とかも可能ではあるが。現行バージョンはだいぶましだが発売当初はあまりに欧州中心史観が強すぎたのでそっち方面からもぼろくそ言われていた。
 各国家のミッションや歴史イベントなど、「君主のRPG」だったCKに比べると「近世国家の歴史シミュレーション」の趣が濃い。


ゲームの現在


 EU4のDLCは1年に1、2本のペースで継続的に発表され、今年も大型アップデートと新DLC・Lions of the Northが発売された。しかしEU4本体の発売が9年前ということと、今回紹介するタイトルは全てEU4発売後に最新ナンバリングタイトルが発売されていることから流石に全盛期を過ぎた感がある。


ゲームの今後


 パラドゲーにありがち、というかDLC商法にありがちなのだが、9年間増設と改良を続けたEU4は増殖するシステムと新要素でもはや九龍城と化しており、かつ「より新しいパラドゲー」が豊富に存在する現在では新規層の呼び込みが難しくなりつつあると言わざるを得ない。
 近年のパラドが志向するマイクロマネジメントの削減3Dヴィジュアルの向上ユニットを動かしての陣取り合戦からの脱却といった方向性を考えると、EU4のシステムがいかにも垢抜けず「古きよきパラドゲー」になってしまっている感は否めない。
 EU3→EU4の間隔が6年で、次回作が出ないことを開発元自らネタにしたVIC2→VIC3の間隔が12年であることを考えると、ここ数年の内にEU5が出る可能性は高いのではないか、と予想する。

 

華々しき帝国主義が民族を導く先は、希望か。絶望か。 Victoria シリーズ


我々の物は我々が頂こうではないか。腹いっぱい食べようではないか。

 

store.steampowered.com

 

ゲームの紹介


 このゲームを書きたかったからパラドゲーを取り上げたのだ!
 最新タイトルは2022年に発売されたVictoria 3、近代の地球全土を舞台にしたゲーム。ファンからは「VIC」と呼称される。そして!公式日本語訳がある!!(なお出来)(おおむね意味は取れるので日本語訳修正MODを入れようね!)
 やってきました帝国主義。広域支配主義とも訳されるImperialismを旗印とした国民国家は、国民と国家の欲望という燃料を産業革命というエンジンでぶん回して世界に乗り出していく。しかしこのゲームが素晴らしいのは「じゃあ武力で世界制覇をするのか」というと必ずしもそれが正解ではないところにある。
 戦争は当然ながら人同士が戦う。傭兵が滅びたこの時代なら国民同士が戦う。このゲームにおいて徴兵された彼らは兵士であると同時に産業を支える労働者であり、国家の胃袋を受け持つ農家であり、次世代を生み育てる良き父であるのだ。彼らが死ねば、当然工場の生産量は減り、農村が生み出す穀物は減り、次世代の子供たちも減る。国の根幹そのものが痩せ細る。国民国家を構成する「国民」そのものをポーカーチップにする行為、それがこのゲームにおける戦争であり当然ながら勝っても負けてもその代価は高くつく。
 他シリーズにおいては「人的資源」という言葉で抽象的に表現されてきた「国家が保有する民」≒「国民」を民族、宗教、職業、貧富etcで大まかに区分した「POP」に再構成したPOPシステムがゲームシステムの根幹であり、傑作といっていいシステムの一つである。別日にて詳述する予定のStellarisなど、パラド別シリーズへの移植も見られる。
 このPOPを使って富国強兵を進め、戦争を防ぐ為に内政・外交をする。戦争のための内政・外交、戦争のための戦争となる不安定性を孕みながら。

 VICは「帝国主義国家の経済・外交シミュレーション」である。


ゲームの現在


 今年10月に最新作が発売されたばかり、ということで今パラドゲー界隈で一番熱い。かく言う筆者もおおむね毎日このゲームで睡眠不足の日々を過ごしている。


ゲームの今後


 数日おきに細かいアップデートが継続的になされており、細かいバグも改善されつつある。
 「戦争のデメリットが弱い」「AIの資源開発が進まないため結局侵略に頼らざるをえず、その意味でも戦争のメリットが大きすぎる」「ゲーム後半のゲーム動作があまりに重い」「クラッシュが多発する」「閉鎖的な国家であるメリットが無く結局開国してあらゆる差別をなくしたほうが強い」「AIが弱い、強いAIでも良いAIでもない」「技術ツリーがそんなに無理なく1920年代には全て埋まってしまう」といった問題点はまだまだあり、特に戦争に関する点はゲームテーマ上も厳しく指摘される点である。

 しかしパラドゲーの初版なんて所詮は有料ベータである。意見を公式掲示板に投げ込みながら今後の改善を待ちたい。

 

 

残る2作、HOIとステラリスは後日。

 →書きました。下のリンクからどうぞ。